小説 『Itと呼ばれた子』 デイヴ ペルザー
本
2008.10.01
- おススメ度:
母親に名前さえ呼んでもらえない。「That Boy(あの子)」から、ついには「It(それ)」と呼ばれる―。「なぜぼくだけが?」米カリフォルニア州史上ワースト3の児童虐待を体験した著者が、赤裸々に語った壮絶な日々の記録。
コメント
概要は母親による長期の虐待、その残酷さそれによる主人公の世間との感覚、道徳のズレ。
そしていろんな人とのふれあいによりそこから救われていく過程の話です。
実際にアメリカであった事件で、筆者は虐待を受けていた本人です。
いくつか感じたことがあるのですが、
まず個人的な意見としてこの筆者のことが僕はあまり好きではないです。
翻訳者の意志も介在しているかもしれませんが、自分の行った過ちを自虐的に書くことで
「自分は本当は悪くないんだよ?」
「こんな風になるように育てられたからなんだよ?」
というような甘え?に近い意思を感じてしまいました。
ただ、たしかに「筆者がそういうズルイ考えを持っている」ということを仮定しても母親による虐待はあまりに残酷で肉体的には当然、精神的にも酷く痛めつけられた筆者には深く同情してしまいます。
よく生きていられたな。と思うほどです。
そして驚いたことは生きるか死ぬかまで追い込んだ母親を筆者は憎みきれずいつまでも母親の愛情を求めてしまっている。
ということでした。
本能的に子は親に何かを求めてしまうということなんでしょうか?
あと少し呆れてしまったのが読者の感想で
「これを読んで自分がいかに恵まれているかを認識した。」
とか
「こんなことをされて頑張って生きている筆者を尊敬します。」
みたいな主旨の感想が出てきていたことです。
。。。なんかずれてません?
というのも
個人的な印象なんですが、この本は
「こんな虐待されなかった君たちは幸せだろ?」
「僕はこんなに頑張ったんだ。すごいでしょ?」
というものじゃなくて
「どうしてこんなことになって、
その後の人生までこんな影響がでるんだろう?」
というような問題提起なんじゃないかな?と感じたからです。
そしてそこから考えたことは
「この話は特別、特殊なケースと考えない方がいいのではないか。」
ということです。
まぁここまで酷い虐待話がそこいらにゴロゴロ転がっているとは思いませんが、普通の人でも虐待する側、される側どちらにでも簡単にひっくり返るんじゃないかと。
はじめに振り上げた拳、吐き捨てた言葉が優越感や支配欲など人間が根源にもつエゴに働きかけまるでそれが意志をもつように理性、道徳心を侵していって歯止めがきかなくなるのでは?と。
イジメと同じですね。
ただ、親子虐待のたちが悪いところは子供が本来すがるべき唯一の存在がそのような状況に陥ってしまうので
「子供にはとる術がない」
また家庭の中で行われるので
「世間に露呈しにくく他者が介入しにくい」
ということだと感じました。
自分の周りの変化を察知する注意力相手の心情を理解しようとする想像力を疎かにしないでおこうと思いました。
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